薬師坂
都営地下鉄三田線の白山駅の真上に薬師坂があります。
白山下の交差点から、上るにつれて坂は勾配がきつくなり、白山上の交差点で国道17号線(旧中仙道)と、さらに直進すれば本郷通りと合流します。
地下鉄の駅ができる前から、坂の上と下にはそれぞれの商店街がにぎわい、周囲の東洋大学をはじめ、たくさんの中学・高校に通う学生たちが、この坂を毎日行き来しています。
この坂の両側を彩る街路樹はユリノキ。別名をハンテンボクともいいます。葉の形が着物の半纏に似ているためにこの名があります。
坂の名の由来は、坂の上部西側にあった妙清寺(みょうしんじ)に薬師堂があったことから来ています。この薬師堂は、眼病に霊験あらたか、「め」の字の奉納額に多くの人が集まったといいます。明治末年まであった薬師堂は土蔵造り、無縁坂の講安寺と似たような建築様式だったようです。
この坂は、坂下に浄雲寺(現在は浄雲院心光寺)があることから浄雲寺坂、中ほどにある白山神社から白山坂とも呼ばれています。
文京には縁の深い夏目漱石の『三四郎』にも、この坂が出てきます。
三四郎が想いを寄せる美禰子、彼女が絵のモデルをやっている原口の家を三四郎は訪ね、首尾よく二人で一緒に帰ることになるのですが。
やがて、女のほうから口をききだした。
「きょう何か原口さんに御用がおありだったの」
「いいえ、用事はなかったです」
「じゃ、ただ遊びにいらしったの」
「いいえ、遊びに行ったんじゃありません」
「じゃ、なんでいらしったの」
三四郎はこの瞬間を捕えた。
「あなたに会いに行ったんです」
三四郎はこれで言えるだけの事をことごとく言ったつもりで ある。
[中略]
しかし、残念ながら話は弾みません。少し歩くうちに白山上の交差点にさしかかります。
「二人は顔を見合わした。もう少しで白山の坂の上へ出る。
向こうから車がかけて来た。黒い帽子をかぶって、金縁の眼鏡を掛けて、遠くから見ても色光沢のいい男が乗っている。この車が三四郎の目にはいった時から、車の上の若い紳士は美禰子の方を見つめているらしく思われた」
後でわかるのですが、実は、金縁眼鏡の若い紳士とは、美禰子の縁談の相手でした。三四郎は二人の関係をまだ知らないのですが、この瞬間にピンと来るものがきっとあったでしょう。原口家は駒込曙町といいますから、今の東洋大学の前あたりに出て、旧白山通りを歩いてきたと思われます。
今、白山上の五差路に立つと、ここは学生たちや車が行きかってで何とも喧しい交差点です。100年前のその時、三四郎はこの場所でいったい何を感じたことでしょうか。
坂にある名店
こむぎこ
- 住 所
- 文京区白山5-35-7
- 電 話
- 03-3814-1873
名店、いろいろ。
坂の両側には、喫茶店やイタリアン、和食などの飲食店も多く、若い人たちのお腹を十分満たしているようです。白山神社への参道にある「こむぎこ」などがあり、薬師坂散策は、お腹を空かせてくることをお奨めします。
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